大学改革の中の図書館  

第二部主事  花 岡   裕

 大学図書館は,大学の教育研究活動の基盤組織として極めて重要な投割を果たしていることは云うまでもない。今から50年前,本学が新制大学として高等工業専門学校から昇格する際,および昇格後1年にも満たない1950年正月,本学の校舎,図書館がほとんど全焼する(蔵書数2万冊中,1万3千冊を焼失)と云う大火災に見舞われ,開学初期において2度に亘る本学の存亡の危機があったことが,10年前に刊行された開学50年創立記念史,「室蘭工業大学100年」に詳細に記録されている。この記録から,この当時の大学設置基準に規定された図書数に達せず,これをいかに確保するかが本学の存続にとって極めて大きなキーポイントであったことが推察される。そのため当時の学長はじめ学内教職員らの復興への血の滲むような努力,またそれを傍から支えた地域の方々の協力支援(例えば工大図書館復興婦人協力会の活動など)があったことは,あらためて想起されて良いと思う。 

 さて歴史は巡り,本学は再び存亡の危機に立たされようとしている。いうまでもなく国立大学の独立法人化への動きであり,我が国の約1世紀に亘る文教政策の転換期を迎え,現在,政府と文部省との激しい攻防戦が繰り広げられているところである。この動きの中で,本学が地方国立大学として存続する意義が改めて問われている。言い冬くされているが,国立大学の投割は,第1に社会の発展を支える人材の養成にあり,第2には科学技術立国を標榜する我が国の知的資産供給源として基礎研究,独創的な研究面から貢献することが求められている。また国立大学の多くが地方に設置されていることから,その大学が位置する地域社会に対するオピニオンリーダーとしての役割や産官学連携による地域活性化への寄与も負わせられている。そのような機能を本学が果たしているかどうかについては,自己評価委員会や現在検討課題となっている外部評価の判断を待つしかないが,ここでは本学図書館のあり様について勝手な個人的な感想を述べてみたい。 

 平成9年度に発行された本学自己点検・評価の総括評価報告書によれば,平成7年度現在,図書蔵書数26.4万冊,入館者総数21万人,館外貸し出し数2.6万冊であると云う。今年度の室蘭工業大学概要の資料でもこれらの数字に大きな変動は見られない。学生在籍者数で割ると,学生一人当り70冊前後の蔵書,入館者数については,一人の学生とすると年間延ベ54回,1週間に1回程度の利用,また館外貸し出し数も6.5冊に留まっていることが見れる。一方で学生アンケートに基づく調査では20%程度しか学習のために図書館を利用していないと回答しているのであれば,利用者は極めて限られたある一部の利用者に偏っていることが改めて浮き彫りされる。このような状況を改善するための努力は,講読雑誌の集中管理化の方策等,歴代の図書館長をはじめ多くの図書館関係者によって積み重ねられたと思われるが,一向にその改善の兆しがないように見受ける。その理由には,種々考えられよう。教官自身の普段の講議などにおける図書館利用への啓蒙活動や宿題などのレポート課題による利用促進が不足気味なのではとの反省もあるが,理工系図書の古書化が進行していることの他,やはり学生自身の活字離れや知的好奇心の欠如が大きいものと考えられる。少し極端な言い方をすれば,このまま推移するといずれ現在,図書館にある閲覧用の図書の大半は利用されないまま陳列されているのみとなり,本の墓場になりかねないとの危惧を抱かざるを得ない。 

 そのような意味から,今後の図書館の役割,業務は時代に合わせ,変えていく必要があるのではないか。上述の総括評価報告書にも指摘されているように,図書館を魅力あるものとし活性化させるためには,中長期的なビジョンを設定し,実行させる必要がある。その一つは,何と云ってもユーザに対する情報提供のあり方と関連して電子情報化を睨んだ図書館作りであろう。そのためには従来から蓄積された図書,雑誌等の紙媒体資料の収集・保存・管理はもとより,それらの資料情報を学内LANを通じて情報提供できる体制を整備することや文部省学術情報センター,あるいは他大学図書館との連携の下,論文検索情報,複写サービス提供等を強力に押し進める方向にシフトさせていく必要があるのではないか。二つ目には,本機関誌第三号に指摘されているように本学情報メディア教育センターとの連携により画像情報を中心としたCD-ROMやDVD-ROMなどの各種メディア機器を導入した電子図書館化への転換を促進すべきではないか。三つ目として,地域社会に対しさらに開かれた図書館とすべきではないかと思う。もとより本学の図書館は,他大学に先駆け従前より学外利用者にも図書館を開放し,多くの市民に利用してもらっている実績を有する。しかしながら貸し出し冊数は,全体の1割程度であり,充分浸透しているとは言い難いのでないか。冒頭にも述べたように,地域に密着した大学として今後本学が歩んでいくためには,そのような姿勢も必要ではないだろうか。

(はなおか・ゆたか)