七色の太陽光と虹の色を調べてみると・・・
材料物性工学科 藤 原 裕 文
私は科学・技術史とりわけ日本の光に関する科学・技術史に興味を持っている。図書館のどこにどんな種類の本が保管されているかを記憶に留めておくために,暇があれば図書館に行くことにしている。私の図書館の一利用法である。ここでは私自身が本学の図書館の蔵書を参照しながら,虹の色について調べたことを紹介する。 『ニュートン』(田中一郎訳 渡辺正雄解説,朝日出版社)や『科学者とキリスト教』(渡辺正雄,講談社ブルーバックス)によると,ニュートンは太陽光を小さな穴に通して暗室内にある三稜プリズムに導き,壁に映しだして七色の光線の帯(董,藍,青,緑,黄,橙,赤色でスペクトルという)を観察した。さらに赤色の外側の延長線上に,可視スペクトル長に等しい長さをとり,その端から各スペクトル色の仕切線までの長さの比を求めた。これらは弦楽器の弦長にほぼ比例するので,各スペクトル色の仕切線を音階のレ,ミ,ファ,ソ,ラ,シ,ド,レに対応させた。
この考え方は我が国の蘭学者にも強い影響を与えた。ニュートンからおよそ150年後の1825年に,我が国で最初に出版された物理学書『気海観瀾』(青地林宗著,朝日新聞社,日本科学古典全書)には,「三稜破璃(プリズム)で太陽光線を受け諸色を紙上に映ずる。・・・七色光線の角度と音律の七調を比べると,色と音が同一の理であることがわかる」と紹介されている。ニュートンの考えが顔を出している。本書の原本が昨年室蘭の市立図書館で発見され話題となったのは記憶に新しい。 虹に話題を移そう。虹は空間に浮遊する球形の水滴に,太陽光が入射して水滴内部で反射して出射する場合に発生する。ニュートンは太陽光は7色の光の混合であり,水の屈折率が色のついた光帯により少しずつ違うことを明らかにして,虹の色を説明した。手元にある漢和辞典によると,虹の偏である虫はにじを蛇に見立てたものであり,旁である工はつらぬくの意味であり,空を貫く蛇という。この虹にはにじの他に五色の旗の意味もある。 ところで,日本人は虹の色を何色に見たのだろうか。幸いなことに,『日本気象資料(2)』(中央気象台・海洋気象台編,原書房)によると,西暦640年頃から1868年(明治元年)までの間に約100例の虹の観察記録が残されている。38例が白虹でり,2例が五虹と六虹である。ここで白虹とは,水滴が小さくなると各色の光は出射するときに拡がるので,各色の光は重なり合い空間的に分離されない虹である。さらに,江戸時代最大の百科事典である『和漢三才図会』(寺島良安著,島田勇雄訳注,平凡社・東洋文庫)によると,弓形をしていて外は黄,中は緑で紅をつつむ,とあり虹の色は三色である。ちなみに,古代ギリシャにおいて光学を詳しく論じたアリストテレスは,虹には赤録青の三色があるが,赤緑色の間に黄色がある場合もあると述べている(田村専之助著,『中国気象学史研究(中)』同書刊行会)。江戸時代以前の日本人にとっては虹の色はたかだか六色に見えたといってよい。明治時代には,多くの理科の教科書や啓蒙書では虹は七色と書かれている。さて我々は虹の色を何色と見るだろうか。 |
(ふじわら・ひろふみ) |