産学連携時代の附属図書館 

地域共同研究開発センター長  田中 雄一

 地域共同研究開発センターは,大学で得られた研究成果を地域社会に還元して新産業の育成あるいは地域の技術力向上などに貢献することを目的として,昭和63年4月に設置されました。昨年,当センターは10周年を迎えましたが,この10年間だけを振り返ってみても,大学に対する社会の要望・期待は大きく様変わりしているように考えられます。これまでの大学は,人材の育成と基礎研究などによる学術的な社会貢献を専らの使命としてきましたが,昨今は単に産業界が必要とする人材の養成ばかりではなく,大学が技術開発はもち論,社会の文化の向上にも寄与することが強く求められております。

 このように,大学や社会いずれもが「大改革」の名のもとに全体が大きく変わりつつあります。その背景には,我が国は高度成長を経て先進成熟国の一つとなり,科学技術においては世界のフロントランナーとなるなど大きな変革を遂げた結果,国際社会に対して人口,エネルギ,資源,食料などの地球規模の諸問題への積極的な貢献が求められていることが,先ず第一に挙げられます。また,国際的な経済競争が激化し,産業の空洞化などによる我が国の経済振興方策に「産学の連携・協力」が大きな柱とされ,新技術に基づく知識集約型の新産業の創出が各方面から切望されております。さらに,情報通信,ソフトウェアーサービスの著しい発展や高齢化社会の到来によるパラダイムの変化が生じ,新しい産業構造の構築を必要としております。

 これらのことは,我が国の研究者の大多数を擁する大学や研究機関が企業等の研究開発に積極的に寄与していかねばならない時代になっていることを意味しております。そのための具体的な方策として,産学連携による共同研究やプロジェクト研究の推進,大学に埋もれた特許の積極的な利用などを,積極的に進めていかねばなりません。

 一方,優れた研究の展開には,膨大な情報の中から研究者が取捨選択して,自分にとって必要な情報を迅速・的確に得ることがどうしても必要です。図書館の存在価値は,先ずここにあるように思います。

 しかしながら,最近における学問研究の急、速な発展に伴い,学術情報の量は年間数百万件に上ると言われ,しかも図書や雑誌の他,音声・ビデオテープ,MD,CD-ROMなど種々多様な媒体により行われているのが最近の傾向です。最も基本となる一次情報は学術雑誌,特許公報,図書などの形で多くの場合提供されていますが,その大部分は全国の大学図書館などに分散して収集されているのが現状です。この学術研究上必要とされる一次情報の収集・整備の充実をはかることは重要ですが,個々の図書館がすべての需要を満たすことは現実的でなく,各図書館の相互利用が不可欠です。

 現在,パソコンやインターネットの普及は目覚ましく,かっての産業革命に匹敵する情報革命が進んでおります。世界において膨大な件数の情報が飛び交い,しかも毎年幾何級数的に増大する文献情報の中から必要な情報を引きだすには,コンピュータによる検索が効果的であると言われております。本学の図書館はこの時代の要求に答えて,インターネットを利用したオンライン検索サービスなどを提供しており,いわば「情報形成者」の役割を果たしております。

 このような情報ネットワークのターミナル機能と一次情報の蓄積・供給は,これからの図書館には是非必要なものであると考えられ,必然的に「電子図書館」の方向に吾進むものと考えられます。電子図書館の充実により,学術情報はコンピュータのデジタル情報となり,ネットワークを通じて瞬く間に世界中から収集できるようになり,新しい情報が世界中で共有され,交換できる時代になるものと考えられます。また,このようなことは,地域格差の解消にも大いに役立つものと期待されています。

 電子図書館に至る過渡期にある今,一次情報をデータベース化した二次情報(目録,索引,抄録など)の整備が是非必要です。また,学術情報の民間へのより積極的な開放が必要であると考えられます。さらに,特許情報などが容易に入手できるように,例えば特許庁のホームページと図書館とがリンクを張ることが必要のように思います。

 地域共同研究開発センターは,次の10年に向けて地域社会へ貢献する有効な途を模索しながら,特徴ある活動を進めて行こうとしております。産学連携による共同研究,プロジェクト研究の推進や大学に埋もれた特許の活用による新たな産業の創出にも,積極的な後押しする図書館であってほしと念じております。                                                   

(たなか・ゆういち)