北海道教育大学旭川校 今 尚之
室蘭工業大学附属図書館には,開拓使や札幌農学校において購入された 洋書など,北海道開発初期の技術導入期に用いられた貴重な図書などが蔵 書され,土木専門部文庫として所蔵されています。
この文庫は,1949(昭和24)年の室蘭工業大学の設置にともない附属土 木専門部が同大学に包括される中で札幌より移管された図書を中心に,第 二次世界大戦終戦後,文部省や北海道庁から移管された和・洋図書,洋雑 誌などおよそ3,400冊からなる文庫です。この文庫の沿革や所蔵されてい る貴重書について,これから3回にわたってご紹介いたします。(写真1)
(写真1)
北海道の開発に当たる土木技術者の養成は,開拓使によって設置された 札幌農学校に始まります。1887(明治20)年には工学科が設置され引き続 き北海道開発を支える技術者養成を目的とした高等教育機関として卒業生 を輩出していました。1893年には札幌農学校は文部省の直轄となり工学科 は廃止されましたが,1897年には校則の一部が改正され,同年,北海道開 拓事業に従事する中堅土木技術者の速成のため土木工学科が設置されまし た。
この土木工学科は大正7年には北海道帝国大学附属土木専門部となり, その卒業生は工学得業士の称号が与えられ,卒業生の多くは北海道内の道 路,排水,運河,鉄道および築港工事その他の土木事業を指導,監督しま した。終戦後北海道帝国大学では専門部の廃止が決定され,当時の室蘭工 業専門学校の新制工業大学への昇格の際に,土木専門部が合併され発展解 消しました。
(写真2)
北海道帝国大学において工学部が発足したのは1924(大正13)年です。 このとき札幌農学校土木工学科の元蔵書が土木専門部の蔵書となったと考 えられています。中には札幌農学校の蔵書印が捺された工学関係洋書が約 330冊あります。その中には蕃書調所をはじめとして5つの蔵書印が押捺さ れたJ.D.PASTEUR 「HANDBOEK VOOR DEN INGENIEUR(1838)」(写真2)な ど,科学教育史の観点から評価される図書も蔵書されています。
北海道大学附属図書館北方資料室にも札幌農学校の蔵書印が捺された工 学関係洋書が収蔵されており,両者の蔵書を合わせ見ることで,北海道の 拓殖史・開発史研究はもとより,我が国における西洋近代技術導入期の数 々の取り組みを,土木史や産業技術史から改めて検証することが可能とな ります。このため土木学会誌などで紹介されるなど高い評価を受けている 貴重な文化財です。
蔵書傾向ですが,日本十進分類法の「技術.工学」に分類される洋図書 は1,244冊(洋図書全体の88%),和図書は1,221冊(和図書全体の78%) と工学技術に関する図書が多いのが特徴です。また,発行年を見ると1920 (大正9)年以前は洋図書が多くそれ以降は和図書が多くなってきます。 明治初期の西洋技術導入期が終わり対象中期以降は基礎的な技術移転がお わり,和図書でも十分な工学基礎教育ができるようになったことを反映し ているといえましょう。
(こん・なおゆき)