みずもと第15号(2002.7)

図書館と私

応用化学科 松山 春男


 私は室蘭工業大学に着任して1年ほどですので,本学の図書館を利用するのは研究に必要な 学術論文雑誌の閲覧と文献検索が主です。個人で購読する雑誌には限度が有り,学会誌が中心で, それも自分の研究している分野の一部の論文雑誌しか購入できないので,図書館の利用が不可欠 となります。図書館であらかじめコピーをする必要のある論文を捜して見ている時に,偶然他の ページにも興味の有る内容が見つかると,なんだか得をしたような気分になります。頭の中の引 き出しに宝物を入れたような感じです。

 前任の東京都立大学の図書館は人文学,法学,経済学,理学,工学の5学部からなる総合大 学の図書館でしたが,蔵書スペースの余裕がなく学術論文雑誌の開架保管に苦労しており,徐々に 電子ジャーナルの導入によりオンライン化へと切り替えて行くことになっています。その一方で東 京都の財政難から大学全体の予算の削減(前年度比10%削減)が連続4年間続き,論文雑誌の値上 がりと合わせて,研究費での購入も限界となっていました。論文雑誌も研究分野が類似する学科間 で相談して折半で購入したり,複数の研究室で分担して購入する等いろいろな方法を考えました。 考え方としては次の3つです。(1)学科として当該学科の学部・大学院教育に是非とも必要な雑誌 は基本的に学科共通雑誌として継続して購入する。(2)境界分野やかなり専門的な雑誌は研究室が 分担する。(3)手許に無い雑誌は図書館の窓口を通して他大学にお願いする。

 東京都内で理学,工学系の学術論文雑誌をほとんど全て購入しているのは東京工業大学の図書 館ですので,研究室の学生は電車で1時間30分かけて,東工大まで論文のコピーをしに出かけていま した。現在では全国各地の大学で電子ジャーナルの導入により,研究室のパソコンからでも,論文 を閲覧・印刷することができます。『みずもと』第13号の鈴木先生のご提案にもあるように「地方 の小規模大学が情報基盤整備に積極的に取り組むために,図書館経費に対する大学予算からの支援」 を含めて,室工大の図書館を通しての電子ジャーナルの積極的な活用が期待されていると思います。

 情報化社会の現在と比べると,のどかな時代の話になりますが,20年ほど前にアメリカの大学 で2年間博士研究員として研究に従事しましたが,その時,教授から与えられた研究テーマの展開に 悩んでいて,夢にまで悩んでいる実験が出てくるようになりました。そういう時には,大学の図書館 にこもって,何とか問題を解決するためのヒントになるような論文がないか,ノートとペンを用意し て熱心に論文雑誌のページをめくりました。何気なく論文の中の化学構造式をながめていると,この 組み合わせの化学反応は,今困っている段階の解決策として利用できるのではないか,と閃くことが ありました。一つの課題に集中して論文を読んでいると,何かがヒントになるものです。「断えず考 える」ということと,「困ったら図書館に行き,そこでヒントを見つける」というのが,博士研究員 時代の生活様式となりました。何か問題を抱えている時に図書館に行き,印刷された論文雑誌をパラ パラとめくりながらヒントを見つけるという解決法も捨てたものではないと思います。ただし,研究 分野や研究のスタイルによると思いますが。


(まつやま・はるお)