みずもと第16号(2003.1)

『大学図書館』とのつきあい

副学長 伊藤 秀範

(電気電子工学科)


 私がこれまでに利用した大学図書館は,学生時代の北海道大学,教員になってからの徳島大学と室蘭工業大学,1年半滞在したオーストラリアのUNE(The University of New England)の図書館である。これらの図書館とのつきあいを気儘に思い出してみたい。

 北海道大学に入学したのは1971年であった。70年安保のくすぶりがまだ続いていて,入学式はなく,1年目は校舎の封鎖などで休講が多かった。そんなときでもレポートを課す先生はいて,レポート書きのために教養図書館(いまの北分館)に初めて足を踏み入れた。大学図書館の機能の1つは学生に勉強できるスペースと適当な学習図書を用意することである。その意味では教養図書館は十分に機能していたし,本学も同様であると思う。

 学部移行してからは工学部中央図書によく通った。買えなかった教科書をよく借りたことを覚えている。中央図書では希望図書をカードに書いて専用ボックスに入れておくとかなり高い確率で,しかも予想以上に早く開架しそのことを掲示で知らせてくれた。この掲示が苦学生にとっては福音であった。大学図書館の役目の1つに学生への良質な図書の提供があり,学生が希望する図書の開架は重要である。限られた予算のなかでいかに希望に応えるかは図書館の知恵のだしどころであろう。

 他の学部へ移行した友達のレポート請負を時々したが,そのときには本館が役に立った。蔵書数が多く,ゆったりとしたスペースと落ち着いた雰囲気が好きであった。これぞ図書館という懐の深さを感じ,静寂の中で請負もスムーズに進んだ。だから調べものは本館と決めていた。つい最近北大図書館の閉鎖性が指摘され、学外への開放を勧告された。今後改善していくようであるが,国立大学の施設は税金で賄われているのだから,当然のことである。本学の図書館は早くから地域に開放し,土日の開館も続けている。このサービスは評価されており,可能な限り今後とも続けたほうが良いと思う。

 大学院生になってからの文献探しは,工学部中央図書,学科図書,応電研(いまの電子研)図書,理学部図書を利用できたので,不自由を感じなかった。大学図書館の研究に関する使命は,ユーザーが論文のabstractやfull textをその場で,あるいは短時間で手に入れるのをサポートすることである。そのためには,電子ジャーナルの積極的導入や文献検索システムの強化,検索システムとネットワークとのリンク等,IT(情報技術)を駆使した電子図書館の構築が求められる。本学のように小規模で地方にある大学こそ,この取組みは重要であり,大学として電子図書館の構築を推し進めていくべきだろう。また,将来的な図書館利用をイメージすると,情報メディア教育センターとの協同が進んでいくように思う。図書館とメディアセンターの連携を深めていくことも真剣に考えて良い時期かもしれない。

 最初に赴任した徳島大学は3つの地区に分散している。本部がある地区を除いて2つ図書館があり,運営の難しさがあったように思うが,図書館の連携はスムーズであった。委員会組織はなく,どのように図書館が運営されていたかはわからないが,4年間の在籍で不自由を感じたことは1度もなかった。転任前に,図書事務職員が校費で購入した図書の帳簿照合に来たが,不足図書に関しては原則的に個人負担とのことであった。不足図書はなかったが,運営の実直さを感じた。当時の徳島大学図書館の特長は,実直な運営,20年以上も前に文献検索ソフトウェアを導入した先取性,ユーザーにいつも耳を傾けていた柔軟性である,いったら褒めすぎだろうか。でも,学習用図書の開架の要求にはいつも耳を傾けてくれたし,首都圏や阪神圏に出かけたときに,校費で図書を購入できるサービスを提供し,ユーザー思いの図書館であったと思う。ユーザーの視点から図書館を見直す動きは,首都圏の公立図書館で進んでいるという。この流れは図書館ばかりでなく,あらゆる機関に向けられていて,国立大学も例外ではないように思う。

 1988年6月から1989年12月まで1年半滞在したUNEの図書館は素晴らしく,文化の違いを実感した。図書館が大学の中心であると大学にいるものみんなが思っていた。とにかく内容が充実していた。蔵書数,論文集の数,文献検索システム,何から何まで凄かった。いくつもゼミ室や資料製作室があり,プリペイドカードでどこででもコピーができた。留学生が多いせいか数十種類の世界中の新聞も置かれていた。私は図書館に週2,3回行っていたが,"The Japan Times"を楽しみにしていた。 サロンや廊下には蒐集した美術品が展示され,午前8時30分から午後11時30分(最終バスの発車時刻に合わせていた)まで開館されていた。学生は,シラバスに書かれている課題や前の授業で出された課題を仕上げることが授業出席の条件とされていて,かつ多くのレポート提出も求められるから,学生のウィークディのキャンパスライフが図書館中心となる。当然利用者数は多く,図書館がUNEで一番大きな建物がであった。本学でも,JABEE(日本技術者認定機構)への申請を目指す学科が増えていくと,学生に家庭学習を多く求めることになるので,図書館を中心とする大学へと進化していくことになるのかもしれない。私は,学務担当として図書館の充実が当たり前となるような教育を目指したいと常々考えている。

 徒然なるままに,大学図書館の思い出話を綴った。キーを叩きながら,「何とかならないのかな」と思ったことが1つある。大学には本の虫が何匹もいる。学内にも古本屋巡りをこよなく愛する虫,乱読を趣味にする虫,蔵書のために部屋の床を補強するほどの虫,この虫たちのアイデアを図書館運営に活かす方法はないものか,ということである。虫たちの意見を是非聞いてみたいものだ。いかがであろうか?

(いとう・ひでのり)